SozoWorks|調査レポート

合成皮革・シート材料に関連する生産業務の公開事例

シート・繊維製品の生産現場は、
AIでどう変わるか

検査装置が拾った画像を、一枚ずつ確認する。染め上がりの色を判定する。設備の状態を監視し、異常時の対応や計画変更を判断する。素材・繊維関連の生産現場では、これらの業務にAIを組み込む取り組みが進められている。

不織布の検品で、人が確認する画像の件数を96%削減。

東洋紡エムシーは、検査装置が検出した画像からAIが欠点候補を絞り込み、作業員が最終確認する工程を構築した。削減されたのは一部銘柄の欠点画像の確認件数であり、人の最終確認は工程に残っている。[1]

画像を絞り込む、判定を支援する、設備の変化を捉える、条件に合う計画を作る。以下では、不織布・テープ・染色・化学などの事例を、対象業務、AIの処理、導入後の運用から比較する。

2026年10月4日|公開資料に基づく調査・分析

01 課題と仕組みの全体像

生産工程の、どの業務を支えているか

合成皮革メーカーの共和レザーは、老朽設備の更新による生産効率向上を長期ビジョンの主要施策に挙げている。近接する繊維産業では技能や機械保守のノウハウ継承、化学プラントでは設備の高経年化と労働力不足が課題として示されている。[33][31][32]

本調査では、合成皮革・シート材料の生産と関連する業務に着目し、不織布、テープ、合成繊維、染色加工、化学品、自動車内装部品の事例を取り上げた。対象の素材や設備は異なるが、検査、品質判断、設備保全、生産計画という業務から、共通する処理と運用の違いを整理できる。

図1 課題・業務と、AIを含む処理の対応
課題対象業務・業界仕組み代表事例
検出画像の再確認や全数目視に人手がかかる不織布・テープ・シート・糸・織物の外観検査画像から欠点を検出する。既存装置が検出した候補をAIで絞り込む方式と、検査装置を置き換える方式がある。東洋紡エムシー、ダイヤテックス、三井化学、東レ [1][3][5][7]
熟練者への依存が大きく、判断を共有しにくい染色品の色味判定、化学製品の形状検査、作業前の危険予知測定値と判定記録から合否を判定する。危険予知では、過去事例を使ってリスクと対応策を洗い出す。艶金、三井化学、旭化成 [30][6][20]
多数の設備の監視や、故障原因の調査に負荷がかかる化学プラントの運転監視、熱交換器の保全、設備故障の診断運転データの変化から予兆を検知する。故障後の診断支援では、図面や保全記録から原因・対策を提示する。花王、JFEケミカル、三菱ケミカル [21][23][24]
計画作成・変更調整を熟練者が手作業で担う繊維・化学品の生産計画、エネルギー計画との調整数理最適化やAIで計画を生成する。生産能力に加え、契約電力や廃熱利用を考慮する例がある。東レ、住友化学 [29][28]

図表は掲載事例の対象業務による整理。合成皮革メーカー自身のAI導入実績を示すものではなく、近接業界の事例を含む。工程の順番や技術の優劣を表す分類ではない。

02 外観検査

画像から欠点を判別し、目視で確認する範囲を絞る

東洋紡エムシーの不織布製造ラインでは、検査装置が検出した全ての画像を作業員が目視していた。画像には欠点ではないものも多数含まれ、確認の負担が大きかった。同社はJR西日本と共同開発した画像解析AIを、2024年8月から岩国の工場で運用している。[1][2]

検査装置欠点候補の画像を検出

従来は、この段階の画像を全件目視していた。

画像解析AI確認が必要な候補を絞り込む

色や厚みごとにモデルを作成。欠点記録も自動作成する。

作業員候補を最終確認して検品を完了

AIの出力を、そのまま最終判定とはしていない。

図2 既存の検査装置と作業員の間にAIを組み込んだ工程。東洋紡エムシーの発表に基づく。[1]

同社の公表値では、一部銘柄の欠点画像確認件数が96%減少した。導入前の2024年5月と導入後の2025年5月について、一般的な銘柄の原反ロール1本あたりの平均件数を比較した結果である。さらに、手書きだった欠点記録も自動で作成できるようになった。[1]

検査装置の後段に加える方式と、装置を置き換える方式

養生テープのダイヤテックスでも、既存の欠点探知機による過検出が課題だった。探知レベルを上げると、場合によっては実際の異常の100倍以上を検出し、目視による再検査が発生していた。同社はラミネート工程の検査装置をAI外観検査装置「TESRAY Rシリーズ」に置き換え、2022年から本格稼働した。[3][4]

ダイヤテックスの装置は、品質上問題のない繊維のよれを正常と判定し、キズや異物を検出する。三井化学のシート状製品でも、誤検知のアラームを受けて運転員が現場へ出向く負担に対し、AIによる良否判定を導入している。いずれも、欠点を検出する処理と、検出後に人が確認する業務がつながっている。[3][5][6]

表1 外観検査への組み込み方
企業・対象検査工程での処理品種への対応・運用
東洋紡エムシー
不織布
既存装置の検出画像をAIで絞り込み、作業員が最終確認。色・厚みの違いごとに数十種類のモデルを作成し、再学習機能を備える。[1]
ダイヤテックス
養生テープ
既存の検査装置をAI検査装置に置換。異常画像と座標を表示。色違いの多品種を一つのシステムで検査。追加学習用の装置を別に設け、ラインを止めずに学習できる。モデルの分割方法は資料に記載がない。[3]
三井化学
シート状製品
画像から良否を判定し、誤検知による現場確認を減らす。現場の熟練技術者から良否判定の指導を受けて学習データを作成。提供会社は外観検査時間の8割削減を報告。[5][6]
東レ 石川工場
原糸・紙管
梱包前に毛羽・汚れなどを検査。製糸工程では紙管の逆セットを検知。外観検査は2020年12月にAI判定を導入。2024年の報道では、品種によって自動化を実現し、対象品種を拡大している。[7][8][9][10]

正常・異常の基準は製品によって異なる。ダイヤテックスでは一時的な繊維のよれが過検出の対象だった一方、東レの原糸検査では毛羽自体が検出対象である。画像を使う処理が共通していても、学習させる判定と、装置が担う検査の範囲は同じではない。[3][8]

03 品質判定・作業支援

熟練者の判定を数値化し、担当者の判断を支える

染色加工の艶金では、染め上がりの色味の合否が工場の稼働に直結し、担当者の精神的な負担が重かった。判断に迷うと1回の検査に5〜10分かかることもあり、ベテランの引退に備えた技能継承も課題となっていた。[30]

同社が導入した色味検査システムは、約2,000件の合否判定をAIに学習させ、色見本と染色後の布を比較する。結果を5秒以内に表示し、不合格の場合は、色相・彩度・明度のどこがどれだけ異なるかを数値で示す。日本公庫の2024年6月資料では、従業員の判断を補助する道具として活用されている。[30]

同資料は、検査時間の短縮、若手だけでの判断、勤務シフトの組みやすさを報告している。取引先からの染め直し要求も、以前の約1割から減少傾向にある。ただし、減少後の割合は示されていない。5秒という値は判定結果の表示時間であり、検査工程全体の所要時間ではない。[30]

合否判定の自動化と、過去事例による作業支援

三井化学は、製品の3次元形状を人が目視していた全数検査を、形状データの数値化と機械学習による合否判定へ変更した。検査工数の削減と、一律の判定基準の確立を効果として挙げている。[6] 艶金のように判定結果を担当者が参照する運用と、判定そのものを自動化する運用の双方がある。

一方、旭化成が製造現場の危険予知に使う生成AIは、合否を判定する仕組みではない。過去事例のデータから、作業前に想定されるリスクと対応策を洗い出す。2024年12月の発表では、経験の浅い従業員によるリスクの洗い出しと技術伝承を支援していると説明している。[20]

表2 判断を支える情報と、AIの出力
業務・企業AIが扱う情報・処理運用・報告された変化
色味の検査
艶金
色の測定値と合否判定を学習し、判定結果と色の差を表示。判断補助として活用。若手が判断できるようになり、シフト編成が容易になった。[30]
形状の全数検査
三井化学
3次元形状データを数値化し、機械学習で合否を判定。検査工数の削減と判定基準の統一を報告。[6]
作業前の危険予知
旭化成
過去事例を読み込ませた生成AIで、リスクと対応策を洗い出す。経験の浅い従業員の作業準備と技術伝承を支援。[20]
04 設備保全

異常の予兆を捉える仕組みと、故障後の診断を支える仕組み

花王の和歌山工場では、エステル設備の約800品種・約30設備を数名のオペレータが監視していた。少人数で多くの運転状況を把握する負担に対し、正常な運転パターンからのずれを検知する「BiG EYES」を導入し、2020年12月に本格稼働した。[21][22]

検証では、オペレータが発見する約5時間前に予兆を検知した。導入後は、ライン閉塞やスチームトラップの動作不良などを未然に捉え、対象設備のトラブル件数が半減したと報告されている。2023年の発表資料では、6設備52モデルが稼働している。[21]

運転データ設備の運転パターンを蓄積

品種や運転条件を含むデータを、監視モデルに用いる。

予兆検知通常と異なる動きを通知

複数の時系列データを分析し、異常度を示す。

現場対応原因と対処を検討

リーダーとオペレータが標準の対応手順に沿って確認する。モデルも現場で維持する。

図3 花王の予兆検知と対応の流れ。アズビルの導入事例に基づく。[22]

予兆を、洗浄停止や在庫の準備につなぐ

JFEケミカルの東日本製造所は、蒸留塔の熱交換器の閉塞に事後保全で対応していた。2023年に導入した仕組みは、流量・温度・圧力のデータから異常度を示し、感度の異なる3つのモデルで注意の段階を設けている。[23]

担当者は、詰まり具合を予兆できることで洗浄停止のタイミングが明確になり、製品在庫の事前準備や清掃業者への手配が容易になったと説明している。異常を知らせる機能が、停止に向けた生産調整に使われている事例である。[23]

故障後の原因調査には、図面・保全記録を使う

三菱ケミカルと日立が2025年12月に開始した共同検証は、設備の故障を発見した後の原因特定と対策を支援する。図面、保全記録、運転履歴を関連付け、生成AIのエージェントが技術者に原因と対策を提示する。熟練技術者と同等以上の速さ・正確さは検証の目標である。[24]

予兆検知は、運転中のデータから変化を捉える。故障診断支援は、発見された異常に対して原因と対策を調べる。同じ設備保全でも、入力する情報と業務上の位置が異なる。花王・JFEケミカルには運用実績の報告があり、三菱ケミカルの事例は共同検証開始の発表である。[21][23][24]

05 生産計画

熟練者が担ってきた計画作成と、部門間の調整を支援する

東レの石川工場では、ポリエステル繊維の生産計画を熟練者が丸1日かけて作成していた。2026年5月の報道は、数理最適化によって膨大な組み合わせから計画を自動生成するシステムの導入を伝えている。公開部分に導入後の作成時間の記載はなく、技術も「AI」ではなく数理最適化と表記されている。[29]

住友化学の千葉工場では、生産計画部門とエネルギー管理部門で意思決定の流れが異なり、工場全体のエネルギー効率を考慮した計画を作ることが難しかった。合成樹脂の生産計画と変更の調整は、熟練者の手作業に依存していた。[28]

日立と住友化学が検証する仕組みは、生産計画とエネルギー計画を連携させ、契約電力の上限や廃熱の再利用も考慮した調整案を提示する。過去1年分の実績データによる事前検証で、従来の計画に対する一定量のエネルギー消費削減を確認し、2025年3月から実工場での検証を開始した。削減量は公表されていない。[28]

表3 生産計画の自動化で扱う範囲
企業・対象自動化・連携する業務公表された段階・効果
東レ 石川工場
ポリエステル繊維
数理最適化による生産計画の自動生成。2026年5月に導入を報道。導入後の作成時間は公開部分に記載なし。[29]
住友化学 千葉工場
合成樹脂
生産とエネルギーの計画を連携し、調整案を提示。2025年3月から実工場で検証。事前検証でエネルギー消費削減を確認。[28]

東レの事例は計画の組み合わせを生成する処理、住友化学の事例は生産とエネルギーという二つの計画の調整を扱っている。後者では、計画を作る速さに加え、部門ごとに扱っていた条件を同時に反映することが検証の対象となっている。[28][29]

06 効果と業務の変化

確認件数、判断の担当、対処の時期に変化が表れている

公表された成果には、検査の確認件数や作業時間の削減に加え、若手の判断支援、設備停止に向けた準備の改善がある。数値だけでなく、どの工程が変わったかを合わせて整理すると、各事例の効果の範囲が明確になる。

表4 公表された変化と対象範囲
企業・業務報告された変化測定・報告の範囲
東洋紡エムシー
不織布の検品
欠点画像の確認件数を96%削減。一部銘柄の原反ロール1本あたりの平均件数。2024年5月と2025年5月の比較。作業時間や人員の削減率ではない。[1]
ダイヤテックス
養生テープの検査
欠点反応総数が165箇所から3箇所へ減少。提供会社の発表に掲載された導入会社社長のコメント。測定期間・対象ロットの記載なし。[3]
三井化学
シート状製品の検査
外観検査時間を8割削減。提供会社の事例での表現。関連記事では「工数」と記載され、測定方法の詳細は示されていない。[5][6]
艶金
色味検査
検査時間の短縮。若手だけでの判断が可能になり、シフト編成が容易に。日本公庫の2024年資料による運用報告。時間の短縮率は記載なし。5秒以内は判定結果の表示時間。[30]
花王
設備の予兆監視
検証で約5時間早く検知。導入後は対象設備のトラブル件数が半減。約5時間はオペレータの発見時刻との比較。トラブル件数は導入後の別の指標。[21]
JFEケミカル
熱交換器の保全
洗浄停止の時期が明確になり、在庫準備や清掃手配が容易に。導入担当者による定性報告。時間・費用の削減値は記載されていない。[23]

AIの出力が、現場のどの作業につながっているか

東洋紡エムシーでは、AIが選んだ候補を作業員が最終確認する。艶金では、AIの一次判定を担当者の判断に使う。花王では、予兆通知を受けた現場リーダーとオペレータが対応を検討する。いずれもAIの出力の後に、人が確認・判断する工程がある。[1][30][22]

運用を継続するための作業も、資料から確認できる。東洋紡エムシーはモデルの再学習機能を備え、ダイヤテックスは生産ラインと別の装置で追加学習を行う。花王では、製造現場が監視モデルを作成・維持している。これらの事例は、判定・検知の利用に加え、導入後のデータ・モデルの更新までを公表している。[1][3][22]

一方、計画や研究段階にある事例では、導入後の業務効果まで確認できるとは限らない。住友化学の事前検証、三菱ケミカルの診断支援の共同検証、国島の織機音による異常検知の研究は、それぞれ確認された段階が異なる。[28][24][25]

調査対象:収集した25事例のうち、生産業務に関する18事例を掲載対象とした。数理最適化による生産計画を含み、AIの記載がない省力化事例は補足として扱った。導入会社・提供会社の発表、公的機関の資料、報道を参照し、有料記事は公開部分を確認した。記載の段階・効果は各資料の公表時点に基づく。

付録:掲載事例18件・補足事例・出典一覧